世界が新しい成熟の世紀へ入ろうとしている今、日本文化の価値を改めて認識し直し、その美と用を次世代に正しく伝えるとともに、世界に発信するべく努力をはらうことは、知識人の重要な責務だろう。
その中に欠かせない要素がきものであるとわれわれは考える。けだし、わが国の最も気高い貢献の一つは美であり、「希望と平和の天空」のもとに営まれる人々の生活は、「日常俗事の中に存する美しきもの」(岡倉天心)によって、真に人間的なものになるからである。
美しさにおいて、また多くの芸術活動や産業活動との結びつきの広さと深さにおいて、きものは、わが国の文化の精髄をなす。
しかし、きものは必ずしもその地位にふさわしい注目を得てこなかった。染物として、あるいは織物として、また、その文様や装飾の技法などが、部分的に称揚さ れることはあっても、きものをトータルに論じ、その価値を明らかにする努力はかならずしも大きなうねりとはなっていない。
日本人の生活と芸術との深い結びつきの中で発展してきたきものを多面的に解き明か し、伝えていく知的活動の一中心になることを願って、われわれはここに「日本きもの学会」を設立し、もって、きものを愛し、きものに知的関心を持つ方々、 またきものに関わる創造活動に携わる方々とともに、相携えて今日のわが国に課せられた責務の一端を担おうとするものである。
平成18年9月16日
日本きもの学会設立発起人会
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